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美術修復の専門学校をめざして

 三ヶ月のフィレンツェ留学
 私はイタリアの絵画修復専門学校へ通うため、入学準備と語学習得を目的に三ヶ月間フィレンツェに語学留学してきました。今年の3月に美術高校を卒業、海外が初めての私ですが楽しく充実した日々を送ることができ、貴重な体験をたくさんさせて頂きました。
 フィレンツェでの生活
フィレンツェの語学学校での授業風景 関西空港から出発し、香港とローマでの乗り継ぎも問題なくでき、フィレンツェのホームステイ先に到着。休む暇もなく、すぐに翌日から授業でした。私の通った語学学校チェントロ・フィオレンツァ(Centro Fiorenza)は比較的小規模で、日本人は少なく、1日4時間の半日授業です。初めは何もわからず置物のようにじっと座ったままでした。英語も全く喋ることができなかったので、他の生徒から心配されるぐらいの乏しい語学力でした…。でも、ここで彼らと私の共通語はイタリア語だけだったので必死に勉強しました。1ヶ月もすると、だいぶ話もできるようになり授業も大まかに理解できるようになりました。
 放課後の時間は、イタリア人と話す機会を多く持つように心掛けました。ある日、シエナのレストランで友人達と料理が来るのを待っていた時、私達は翌日のテストに備えて条件法の勉強をしていました。私が声に出して暗記をしていると、隣のテーブルでパスタを食べていたおじいさんに「発音がおかしい!私の発音を聞きなさい。」と正しい活用を大きな声で言ってくれたのです。周りのイタリア人全員が笑っていて、少し恥ずかしかったのですがとても勉強になりました。今でもその活用を覚えているのは彼のお陰です。
 よりによって帰国の日に・・・
 たくさんの人々と出会い、充実した毎日でしたが、ついに留学生活の終わりがやってきました。そして帰国の日…私にとって忘れることのできないとても濃い1日でした。
 朝8時発のローマ行きのユーロスターに乗るために、私は少し早めにアパートを出ました。7時半に駅に着き電車を待っていましたが、なかなか来ません。電車が到着したのは出発時刻の数分前、何か嫌な予感がしましたが、とりあえず電車に乗りました。すると数分後、車内放送が流れると一気にみんなが電車を降りていくのです。よく放送を聞いてみると、フィレンツェからローマまで直通1時間半の道のりをピサ経由で4時間以上かかるというのです。なんと大規模なストライキでした。私は周りの人たちに相談をしましたが、彼らもまた相当困っている様子。私も彼らにまじり車掌に「なぜ動かないの?いつ出発?」と質問をしましたが「Non lo so!」と返ってくるだけ。でも私は1時発の飛行機に乗りたいのです。窮地に追い込まれた私は「日本に帰らなくてはならないんだ!」と叫ぶと、もっと大きな声で「僕には関係ない!」とつき返されました。するとそれを聞いたイタリア人のおばさんが「日本に帰るの?もう間に合わないから延着届けを切符に押してもらいなさい。そうしたら飛行機の予約を変えられるから、一旦空港まで行きなさい。」と親切に教えてくれたのです。すると、すぐに電車の出発合図が出たので、電車に飛び乗りました。しかし電車は走ったり、止まったり…もう飛行機に間に合いそうではなかったので、思いっきりストライキを楽しんでやろうと風景を眺めながらチョコレートを口いっぱいに頬張りました。
 
 人のあたたかさに触れて・・・
フィレンツェの公園にて  結局ローマに到着したのは飛行機の出発時刻で、延着届けをくれるという人の所へ行き事情を説明しましたが「みんなストライキって知っているからいらない!あそこで切符を買って空港まで行ったら?」と言うのです。きっとイタリアは全てが適当だから大丈夫だろうと、変な自信と共に彼女の言うとおりに空港まで行きました。とりあえず予約は変更でき、空港の近くの安いホテルを予約しました。
 このホテルはアパートの一室で、他の部屋にはオーナーのおじさんの娘さんと3人のイタリア人の学生が住んでいるとの事でした。オーナーのおじさんはすごく優しく「ストライキはイタリアでは普通だよ!頑張れ!」と励ましてくれました。その時、学生さん達が帰ってきたので自己紹介をしました。部屋に戻り紙切れ同然になった電車の切符を眺めていると、1人の学生が部屋にやって来て「なんでこの街に来たの?」と質問したので、今までの事情を説明すると「じゃあお腹空いてるでしょ?ご飯作ったから僕たちと食べよう。」と言ってくれたのです。見ず知らずの日本人にご飯をご馳走してくれるなんて、私は感動して何も言えませんでした。ご飯を食べながら話をしていると、彼らもまた親元を離れ飛行機関係の学校に通っているそうです。同い年でしたがすごくしっかりしていて大人っぽかったです。食後には街の案内までしてくれ、彼らの友達とも出会い、私にイタリア語の名前まで付けてくれすごく感謝しています。この日、初めて同い年のイタリア人の子達と話し、彼らは自分たちの国や文化にすごく誇りを持って生きているんだなと感じ、私にとって良い刺激になりました。
 そして次の日の早朝、私は彼らと空港に向かいました。昨日のお礼を言い立ち去ろうとした時、学生の1人が「お腹が空いたら食べてね。」とクロワッサンの入った紙袋を渡してくれたのです。ストライキ中のイタリア人はおっかなかったですが、やっぱり人柄は温かいんだなぁ、とあらためて実感しました。
 夢へ向かって
美味しいピザ屋さんで  今回、私は語学留学だけでしたが、語学以外の勉強もたくさんでき、日本では体験できない事もたくさん体験させていただきました。自分の言いたいことが伝わらなかった時、すごく苦しかったのですが、やっと伝わった時の感動は今でも忘れることが出来ません。また行動力や判断力もつき、少しは精神的に強くなることが出来ました。
 今は絵画修復専門学校の入学手続きをしているところです。次回の留学でも何が起こるか分かりませんが、今までの経験を生かして頑張りたいと思います。どうもありがとうございました。